すゑのこにやおはしけむ。大納言宗通の民部卿と申ししこそ、大宮どのゝ御子には、むねとときめき給ひしか。すゑもひろくさかえ給へり。白河院の御おぼえにおはしき。あこまろの大納言とぞきこえ侍りし。哥をもをかしくよみ給ひけるにこそ。行尊僧正のよゐして、とこわすれ侍りけるを、つかはすとてよみ給ふこそ、いとむかしの心ちして、
草枕さこそかりねのとこならめけさしもおきてかへるべしやは
かへしはをとりたりけるにや。えきゝ侍らざりき。その公達は、顕季の三位のむすめのはらにおほくおはしき。信通宰相中将と申しし、ふえの上手にておはしけり。是は世おぼえおはすときこえ給ひき。白河院の殿上人に、むさのさうぞくせさせて御らんじけるに、しげめゆひのすいかんきて、やなぐひおひ給へりけるこそ、しなすぐれておはしけるにや。こと人はともひとの様にて、このきみこそこあるじなどいはむやうにおはしけると人の申しし、ひがことにや。わらはやみしてうせ給ひにけりとぞきゝ侍りし。いと人のしなぬやまひにこそ、つねはきゝ侍るに、おほかたはこのすゑの御ものゝけこはくおはするにや。民部卿のうせ給ひけるほどにも、いへまさがありつるは、まだあるかなどの給はせければさも侍らず。はかなくなりてとしへ侍りにしものは、いかでか侍らんなど人申しければうやかきてまさしくありつるものをとの給ひけるは、そのいへまさといふがおやのゆづりたるところをとり給ひけるを、からくおもひけるほどに、よせふみをたてまつれ。あづけんなど侍りければよろこびてたてまつりけれど、あづからざりけるとぞ聞侍りし。いへまさとはさねしげとて、式部大夫とかきこゆるがをぢになんきこえし、故宰相うせ給ひけるにも、卿殿おはしまさねば、候はんとてなんどいひていできたりけるとかや。さてそのところは、むすめたづねいだしてかへざるなどきこえ侍りし。のちいかゞ侍りけん。これならず大宮のおほいどのゝ、ものゝけなどいふものも侍るが、としおいたりける僧のしる所侍りけるを、それもさまたげ給ひければまゐりて、中門の らうにつとめてより、ひたくるまでゐたりけれど、いへ人も御けしきにやよりけん。申しもつがざりけるを、民部卿をさなくて、うつくしきわか君の、あそびありき給ふに、この僧のいとをしくつく<”とをりければとぶらひてわれ申さんとて、殿に申し給ひければ人いだしてとはせ給ひけるに、しか<”の所のこと、こたへ申し侍るなど申しければそのよしあることなどこまかにいひいだし給へりけるを、ことわりの侍らんは、とかく申すべくも侍らず。としごろもしるべくてこそ、ひさしくもしり侍らめ。なにかは申すべからず。いのちのたえ侍りなむずることのかなしくてと申しければいはれのあればとて、かなひ侍らざりければいかにもいのちたえ侍りなんとす。たゞしわかぎみをばなさけおはしませば、まぼりたてまつらんと申しければ、それもゝのゝけにいでけるを、まもらんといひしはなどありければさ申しちぎりおもふたまふれば、まもりたてまつるに、その御ゆかりとおもふによりて、おのづからまいりよるなりとぞいひける。宰相中将の公だちは、基隆三位のむすめのはらに行通中将ときこえ給ひし、つかさもじゝ給へりし、ほふしになりておはするとぞ、ことはらのいまひとりおはするとかや。ふたりながら、いよの入道とぞきこえ給ひし。おもひかけぬやうなる御なゝるべし。