今鏡 - 13 たまづさ

堀川のみかどは、白河の法皇の第二の御子におはしましき。その御母、贈太皇太后宮賢子中宮なり。關白左大臣師實のおとゞの御むすめ、まことには、右大臣源顯房のおとゞの御むすめなり。このみかど、承暦三年つちのとのひつじ二月十日むまれさせ給へり。應徳三年十一月廿六日、位につかせ給ふ。御とし八、このみかど御心ばへあてにやさしくおはしましけり。そのなかに、ふえをすぐれてふかせ給ひて、あさゆふに御あそびあれば、たきぐちの、なだいめんなど申すも、てうしたかうとて、あかつきになるをりもありけり。その御時、笛ふき給ふ殿上人も、ふえのしなどみなかの御時給はりたるふみなりなどいひて、すゑの世までもちあはれ侍るなる。時元といふ笙のふえふき、御おぼえにて夏はみづし所にひめしてたまふ。おのづからなきをりありけるには、すずしき御あふぎなりとて、給はせなどせさせ給ひけり。宗輔のおほきおとゞ、このゑのすけにおはしけるほどなど、夜もすがら御ふえふかせ給ひてぞ、あかさせ給ひける。和哥をもたぐひなくよませ給ひて、さ月の頃、つれ<”におぼしめしけるにや。哥よむをとこ女、よみかはさせて御らんじける。大納言公實、中納言國信などよりはじめて、俊頼などいふ人々も、さま<”のうすやうに、かきてやり給ひけり。女は周防内侍、四条宮の筑前、高倉の一宮の紀伊、前齋宮のゆり花、皇后宮の肥後、つのきみなどいふ、ところ<”の女房、われも<とかへしあへり。又女のうらみたる哥よみて、男のがりやりなどしたる、堀川院の艶書合とて、すゑの世までとゞまりて、よき哥はおほく撰集などにいれるなるべし。ふたまにてぞ、かうじてきこしめしける。又時のうたよみ十四人に、百首哥おの<にたてまつらせ給ひけり。をとこ女僧など、哥人みな名あらはれたる人々なり。題は匡房の中納言ぞたてまつりける。このよの人、哥よむなかたてには、それなんせらるなる。尊勝寺つくられ侍りけるころ、殿上人に、花慢あてられ侍りけるに、俊頼哥人にておはしけるに、百首哥あんぜんとすれば、いつもじには花慢とのみおかるゝときかせ給ひて、ふびんの事かなとて、のぞかせ給ひけるとぞ、きこえ侍りし。いづれのころにかありけん。南殿か仁壽殿かにて、御らんじつかはしけるに、たれにか有りけん。殿上人のまゐりて、殿上にのぼりてゐたりければ、
  雲のうへに雲のうへ人のぼりゐぬ。 とおほせられけるに、俊頼のきみ、   しもさぶらひにさぶらひもせで 、 とつけられたりけるを、ことばとゞこほりたりときこゆれど、心ばせもあることゝきこゆめり。哥のふぜい、いたづらにうする事なりとて、連哥をば、おほかたせられざりけりときこえ侍りしに、金葉集にぞいとしもなき、おほくあつめられたる。いたづらにいできたるを、をしまれ侍るなるべし。基俊のきみが連哥は、つきくさのうつしのもとのくつわむし、などしたるをいふ也。又からかどやこのみかどともたゝくかな。ゝど侍りけり。木工頭俊頼も、高陽院の大殿のひめ君と聞え給ひし時、つくりたてまつり給へりとかきこゆるわかのよむべきやうなど侍るふみには、道信の中將の連哥、伊勢大輔が、こはえもいはぬ花の色かな。とつけたる事などいというなることにこそ侍なれば、連哥をもうけぬことに、ひとへにし給ふともきこえず。おほかたは、みる事、きくことにつけて、かねてぞよみまうけられける。當座によむことはすくなく、疑作とかきてぞ侍つる。さて侍りけるにや。家集に、きゝときゝ給へりけると、おぼゆることをよみあつめられ侍るめり。これは連哥のついでに、うけたまはりしことを申し侍るになむ。さてこの御時に、みやす所は、これかれさだめられ給へりけれども、御をばの前齋院ぞ女御にまゐり給ひて、中宮にたち給ひし。ことのほかの御よはひなれど、をさなくよりたぐひなくみとりたてまつらせ給ひて、たゞ四宮をとかや、おぼせりければにや侍りけん。まゐらせ給ひけるよも、いとあはぬ事にて、御車にもたてまつらざりければ、あか月ちかくなるまでぞ、心もとなく侍りける。とばの御かどの御母の女御どのもまゐり給ひて、院もてなしきこえさせ給へば、はなやかにおはしましゝかども、中宮はつきせぬ御心ざしになん、きこえさせ給ひし。女御うせさせ給ひてのころ、
  あづさ弓はるの山べのかすみこそ恋しき人のかたみ成りけれ 。 とよませ給へりけるこそ、あはれに御なさけおほくきこえ侍りしか。すゑのよのみかど、廿一年までたもたせ給ふ、いとありがたき事なり。時の人をえさせ給へる、まことにさかりなりけり。一のかみにて堀河の左のおとゞ、物かく宰相にて通俊、匡房、藏人頭にて季仲あり。むかしにはぢぬ世也。などぞおほせられける。みち<のはかせも、すぐれたる人、おほかる世になむ侍りし。このみかど、みそぢにだにみたせ給はぬ、よのをしみたてまつる事、かぎりなかるべし。その御ありさま、ないしのすけさぬきとかきこえ 給ひし、こまかにかゝれたるふみ侍りとかや。人のよまれしを、ひとかへりはきゝ侍りし、このなかにも御らんじてやおはしますらん。